
この問題の考え方を短い動画にまとめました。動画は問題の提示から始まります。 流れをつかんでから、下の解説を読んでください。
\(I\) と \(J\) を別々に計算しようとすると、どちらも手に負えません。 ところが足すと一気に簡単になる。 これが King Property(\(x\to a+b-x\) の置換)と呼ばれる有名な手筋です。
この回で扱う問題(静岡大)
\[I=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{\cos^{3}x}{\cos x+\sin x}dx,\qquad J=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{\sin^{3}x}{\cos x+\sin x}dx\ \text{とする。}\]
(1) \(x=\dfrac{\pi}{2}-t\) とおいて置換積分法を用いることで、\(I=J\) を示せ。
(2) \(I+J\) の値を求めよ。
(3) \(I\) と \(J\) の値を求めよ。
King Property とは
\[\int_{a}^{b}f(x)\,dx=\int_{a}^{b}f(a+b-x)\,dx\]
積分区間を左右ひっくり返しても値は変わらない、という性質です。 今回は \(a=0,\ b=\frac{\pi}{2}\) なので \(a+b-x=\frac{\pi}{2}-x\)。 つまり \(\sin\) と \(\cos\) が入れ替わります。
(1) \(I=J\) を示す
\(x=\dfrac{\pi}{2}-t\) とおくと \(\dfrac{dx}{dt}=-1\)、区間は次のように対応します。
\[\begin{array}{c|ccc} x & 0 & \to & \frac{\pi}{2}\\\hline t & \frac{\pi}{2} & \to & 0\end{array}\]
\[I=\int_{\frac{\pi}{2}}^{0}\frac{\cos^{3}\!\left(\frac{\pi}{2}-t\right)} {\cos\!\left(\frac{\pi}{2}-t\right)+\sin\!\left(\frac{\pi}{2}-t\right)}\cdot(-1)\,dt\]
ここで足して \(\frac{\pi}{2}\) の関係を使います。
\[\sin\!\left(\frac{\pi}{2}-\theta\right)=\cos\theta,\qquad \cos\!\left(\frac{\pi}{2}-\theta\right)=\sin\theta\]
分母は \(\sin t+\cos t\) とそのまま、分子だけが \(\sin^{3}t\) に変わります。 さらに \((-1)\) で上端と下端を入れ替えると
\[I=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{\sin^{3}t}{\cos t+\sin t}dt=J\]
積分変数の名前は値に関係ないので、これで \(I=J\) が示せました。
(2) \(I+J\) ― 足すと分母が消える
\[I+J=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{\cos^{3}x+\sin^{3}x}{\cos x+\sin x}dx\]
分子は3乗の和なので因数分解できます。
\[\cos^{3}x+\sin^{3}x=(\cos x+\sin x)(\cos^{2}x-\cos x\sin x+\sin^{2}x)\]
分母がきれいに約分され、\(\cos^{2}x+\sin^{2}x=1\) と2倍角で
\[\frac{\cos^{3}x+\sin^{3}x}{\cos x+\sin x}=1-\cos x\sin x=1-\frac{1}{2}\sin 2x\]
\[I+J=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\left(1-\frac{1}{2}\sin 2x\right)dx =\left[x+\frac{1}{4}\cos 2x\right]_{0}^{\frac{\pi}{2}}=\frac{\pi}{2}-\frac{1}{4}-\frac{1}{4}\]
\[I+J=\frac{\pi-1}{2}\]
(3) 連立して終わり
(1) より \(I=J\)、(2) より \(I+J=\dfrac{\pi-1}{2}\) なので \(2I=\dfrac{\pi-1}{2}\)。
\[I=J=\frac{\pi-1}{4}\]
つまずきポイント
- \(I\) を単独で計算しようとする。 \(\frac{\cos^{3}x}{\cos x+\sin x}\) は初等的には手に負えません。 「対称な相方を作って足す」という発想に切り替えます。
- 置換で \(dx=-dt\) の符号を落とす。 落とすと符号が反転して \(I=-J\) になってしまいます。 上端・下端の入れ替えと \((-1)\) はセットです。
- \(\cos^{3}+\sin^{3}\) を \((\cos+\sin)^{3}\) と混同する。 使うのは \(A^{3}+B^{3}=(A+B)(A^{2}-AB+B^{2})\) です。
- \(I-J\) を作ろうとする。 差では分母が消えません。和を作るから約分できるのです。
要点まとめ
- King Property:\(\int_{a}^{b}f(x)dx=\int_{a}^{b}f(a+b-x)dx\)。区間を折り返す。
- 区間 \(\left[0,\frac{\pi}{2}\right]\) では \(\sin\leftrightarrow\cos\) が入れ替わる。
- 解けない積分は、対になる積分を作って和を取る。
- \(I=J\) と \(I+J\) がわかれば、連立で個別の値が出る。
この手が効く場面
- \(\displaystyle\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{\sin^{n}x}{\sin^{n}x+\cos^{n}x}dx=\frac{\pi}{4}\)(同じ手で一発)
- \(\displaystyle\int_{0}^{\pi}xf(\sin x)dx=\frac{\pi}{2}\int_{0}^{\pi}f(\sin x)dx\)
